素直に楽しんじゃだめですか? 今村夏子『星の子』(8/29)

この本を読みました。

hoshinoko

今回は紙の本なので写真もあります

今村夏子『星の子』。
夫が買ってきてくれたシリーズです。よっぽど私に読ませたかったようだ……。
「あらすじとかオビとか何も見ないで最後まで読んでほしい!」と、書店のカバーがかかった状態で渡されました。そして素直にその状態で読んだ。

私は今村さんの小説読むの初めてです。
面白いって評判だけど……でも難しいんじゃないかな。って思ってました。純文学だし。
小さい女の子が主人公の純文学って聞くと、あの人みたいな作風かと思って。いるじゃん! 昭和の純文作家で少女をモチーフにいっぱい書いた女性作家!
誰だっけ。やばい名前出てこないわ……私たちの世代が学生だった頃は「文学部の女子必ず読むべし」みたいなノリだったあの作家だよ。って説明しながら手探りに検索してもまったく思い出せないんですけど、とにかくまぁそういう作家さんが居て、大学の図書館でレポートの合間に短編集めくって数篇読んでみたけどいっっっっさい理解できなかった。という思い出があって、勝手に今村さんもその仲間に分類してしまっていたのですわたしは。

だから結構ドキドキしながら読み始めました。私に理解できるような内容なんだろーかって。
とりあえず文章は思ったより平易で、言ってることがわかんないとか単語がわかんないとかはない。
でも! 純文だからな! 純文はなにやらかしてくるかわかんねーからなちょおこえーからな! とか偏見丸出しに(この間紹介したナオコーラだって純文なのに……)、へっぴり腰でまっくらな通路を懐中電灯で照らしながら歩くような気持ちで読んでいたのです、最初は。

語りは、主人公の女の子「ちーちゃん」=ちひろによる一人称。お話は彼女の幼少時代から始まります。
未熟児として生まれ、小さい頃は徹底的にからだが弱かったちひろ。両親は彼女が体調を崩す度に奔走、そうやっている間に、「特別な祈りが込められた、からだにいいお水」的なアレと出会ってしまい、新興宗教にハマってしまいます。
ごくごくフツーの、子ども思いだったはずの両親は、宗教に心とお金をつぎ込むうち、いつの間にか「フツー」の道を外れ、世間から奇異のまなざしを向けられるようになります。もちろん、ふたりの子どもであるちひろと姉もそのまなざしから逃れることはできません。

というような感じで、話の流れは非常にシビアなのですが、この出来事が全部、幼いちひろ視点で描かれているがゆえに、そのまんまシビアには伝わってこない……というのがミソです。
なんならちょっと面白い。「インタレスティング」的に面白いんじゃなく、笑っちゃう系の面白さ!

で、なおかつこの面白さが、後に行くにつれてどんどん増していくんですよ!!
ちひろの幼少期、思春期と時間が流れて、物語の後半はほとんど彼女の中学三年生の時期に割かれているんですが……この辺まで来るともう、面白すぎて読むのを止めたくない! 夜に読み始めたから日をまたいで読まざるをえなかったんですけど、寝る前に「早く明日が来ないかなー^^」って素で思いました。MAJIDE。
もう懐中電灯で暗闇を照らしながら……みたいな気持ちでは全然読んでないw 暗闇は暗闇だけど、懐中電灯なんぞ投げ捨てて軽快に疾走している! 中三編、ぎゃーとかわーとか言いながら読んだよ!
ちひろは客観的に見れば相変わらずかわいそうなんです。両親は仲良く宗教にハマったまんまだし、宗教に貢ぎすぎて家めちゃ貧乏になってるし。貧乏すぎてちひろが食べ物に固執するようになってるし(親戚の法事の仕出し弁当を食べるのに燃える有様!)
それなのにちひろ視点だと……中三になるとさすがに、こたえるようなことも起こったりするけど……悲惨ではないの。かわいそうじゃないの。
これをかわいそうって感じるのは、きっと視点が遠い人で。「かわいそう」な子どもを助けるためには遠い視点も必要なんだろうけど(物語の中にもそういう視点を持つ、ちひろを助けようとする大人が出てきます)、当人の感じ方だと「かわいそう」じゃない。ちひろにシンクロしてる私の感じ方でも、かわいそうじゃない!

トータルで……私はこのお話を、「普遍的な家族小説」として受け取りました。「宗教にハマった特殊な親を持つ、かわいそうなお子さんの話」じゃなくて。
誰しも、多かれ少なかれ、そして時期が長かれ短かれ、両親の作った檻の中で育つでしょ。。。まあほんとに「多かれ少なかれ」の幅は広くて、一般化しすぎてしまうのもアレだけど(程度が行き過ぎるとやっぱ虐待なんだけど。この話では、ちひろに両親の愛情が集中しすぎているため、お姉ちゃんのほうは完全に「虐待の被害者」になってしまっている)。
いつかはその檻を、そこに入っていた自分自身が遠くから振り返る日がやってきて、ちくしょうと思ったり、あるいは懐かしく感じたりする。
家族って、親子って、そういうものだよねーーーーてきなことを、しみじみと思いました。
後半はちひろの学校生活にもかなり枚数が割かれていて、体裁としては「家族小説」ではないかもしれないんだけど、そういう、子どもが家の外で別の価値観に触れるというところまで含めての「家族小説」というのが私の解釈です。

ちひろはこの後どうなるのかな?
「ここまでが書いてある」って言うとそれだけでネタバレになっちゃうのでぼかしますけど、私は、最終的にはそう遠くなくちひろが両親の檻を出る日はやってきちゃうと思う。
で、あーうちってひどいとこだった、サイアクだった! って思う~……かもしれない。ちひろのリアルタイムの語りであるところの小説本体が、めっちゃ面白くても笑えるものであっても。
でもその両方の感じ方、どっちも嘘じゃないし大事だよねって。思うようなお話でした。

この小説、家族とか親子の関係を描いた小説が好きな人にはぜひ読んでみて欲しいな。あとはフツーに、面白い話が好きな人!
この作品、感想ぐぐってもあんまり「笑ったわー」みたいなのないんですけど、これ、みんな笑ってない? もしかして笑っちゃだめなやつ……? わたしてきにはすごい……今村さん、色んな力のある人だと感じたけど、その中で笑いのセンスが一番うらやましい! と思ったレベル。。。
夫はというと、面白いことにはやっぱり面白いって言ってた。でも読後感は私レベルのもんじゃなかったらしく、感動して最後は泣いてしまったとのこと。
正直私、ラストシーンだけ最初よくわかんなかったんですよね! それで最後の最後で「???」ってなっちゃったんだけど、夫に「この両親の言葉はこういう気持ちから来ていて、かくかくしかじか!」って説明されて「あ〜〜〜」ってなりました。納得。
しかしそこまでこの両親に思いを入れて読む人がどんだけ存在するかはわからない。ぐぐって見てみたみんなの感想も結構極端に分かれているので、本当に色んな読み方のできるお話だと思います。

『星の子』今村夏子 (朝日新聞出版)

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